新作「黄泉のマチ」のレビュー

今作は前作の発売から2年待ちました。あとがきにあるように、漫画家を辞めようと思ったりといろいろな苦悩があったようです。町田ひらく氏が苦悩するのはこの方の常態であるようにも思えますが、確かにシリーズ「たんぽぽの卵」は以前よりはるかに増して絶望の色に満ちています。

このシリーズを書くにあたり、町田氏は完全に和姦を諦めたようです。完全加害者と完全被害者しか出て来ません。今までの作品の傾向は、なんとかして幼女との和姦が成立しないかと模索するような内容も多くありました。今回は「吹っ切れた」感じがします。少女を傷つけずに劣情を果たすことなど、あるはずもないのだと。この悲愴は二次元の絵の上にはありません。

いままでの作品で特に少女の方から事を仕掛けてくるような物語では、少女の心の機微がこと細かくリアルに描かれていました。子供らしい好奇心やひたむきな強さ。そして女性らしい賢さ、優しさ。その表現は真に迫っており、思春期前の女の子の中に眠る母性の原型さえ見えます。郷愁すら覚えさせ、男女問わず読むものを惹きつけて離さないものがあると思います。内容自体がロリコンポルノであるのにも関わらず、万人に町田ひらくを薦めたい理由の一つがこれです。

しかし「黄泉のマチ」では全くと言っていいほど少女の個性や内面を描きません。変わりに男共は醜悪さを極端に増し、ベトベトした気味悪い視線を少女へ注ぎながら、蠢くように少女に擦り寄ってきては一方的に搾取し、最初から最後まで虫のようです。
少女の内面を描くよりも、逆説的にこちらの方がより少女の内面に同調した表現と言うこともできますが、なにせ気持ち悪く、オエェっときます。もともと東南アジア系の小男を描くのが得意だった作者ですが、今回はとうとうベトナム人の女衒が登場しました。目をそむけたくなる醜悪な表情も見事です。快楽のためではなく断罪のために描かれたポルノが町田ひらくの他にあるでしょうか。

時系列で見ると町田ひらく氏の作品はだんだんそういった傾向にあるようで、新しいものほど少女姦の罪悪について深刻になっていきます。
深刻さにおいても、構成についても、「黄泉のマチ」はもはや煮詰まっています。設定があるだけでこれといったストーリーは無く、少女の内面に迫ることも避けられて、登場するのは気持ち悪い男達ばかりなので一抹のつまらなさを感じてしまったのも確かです。純文学的なつまらなさです。「MOUSE TROUBLE BLUES」の可愛くアホらしくキッチュなお話や、「お花ばたけ王朝紀」の遮られたキスの美しさなどを思い出すと、作品のバラエティに乏しくなるのは、作品の純度を研ぎ澄ますための代価としては大きすぎるのではないかと思えます。かといって失望などはしていません。むしろ一つの叙述方を極めた著者が、次はどうなってしまうのかと緊張するほど期待してしまいます。