ムスリムな彼

koikeakira2004-12-22

今日は仕事でした。
芸者は接客中の時給は高いですが、化粧に一時間、美容院に一時間、着物の準備と着付けに一時間かかり、待機中は玉代がつかないので、割に合わないこともしばしばです。
私はベテランの御姉ちゃんたちのようにプライベートを注ぎ込んで大きな稼ぎはできないけれど、小賢しく策を弄してチョロチョロと小銭を稼いで、なんとか割に合わせるようにしています。
今日、水屋へ行ってお料理の献立を確認すると、私の付くお座敷のお料理に「豚肉禁止」の文字がfont size="+7 color=crimson"で書かれてありました。ムスリムの方がいらっしゃるのかなと思ったら、本当にそうでした。外国人は珍しくはないけれど、イスラム系の方がいらっしゃることはめったにないことです。
現れたご本人は、派手なカメオのカフスボタンに縞のはっきりした青のスーツといういでたち。前世からの贅沢が滲み出たような、上品かつ残忍なオーラを放ち、物腰まろやかでまことにオリエンタル!!その姿を見るだけでシタール(違)の調べが聞こえてきました。
玄関に上がられてから乾杯まで一言も喋らないので、やはり日本語は不慣れなのかなと思いました。通訳はいないようだ。大丈夫だろうか?
しかし乾杯の後、ムスリムな彼は向い側に座った男性が吸う煙草を見て、
「なんだオマエ、チェリー吸ってんのか。チェリーボーイだもんな。ははは」と完璧な発音で宣われました。
・・・普通のオヤジじゃん。その後も彼の姿と発言とのギャップに驚かされっぱなしでした。
麦焼酎、ウーロン割りね」
「いや、私はギャンブルは一切やりません。仕事がギャンブルみたいなもんだから、それでいっぱいいっぱいですよ。」
「その時はさすがに勘弁願いましたね。俺にだって選ぶ権利はありますよ」
等々、芸者としては何百回聞いたか解らないエリートサラリーマンの定石トークを、その口から聞くのは、吹き替えの映画を見ているようで現実感に欠けました。
日本人の中年男性を腐るほど見て、また白人男性の経営者も少し観察して、両者の思考や定石には相通じるものがあり、特に中小企業経営者クラスになるとその趣味嗜好まで判で押したように似通うということは知っていました。
そんな人たちのことを嫌だなあと思いながら、未知のアラブ・イスラム民族の中流階級には私は幻想を残していました。動物的で神秘的な顔立ちに、極上の黒真珠のような瞳。きっと何もかもが私の日常とかけ離れているのだろうと。甘かった。
でも、ムスリムな彼の場合は日本に住んで10年目だというので、彼が学んだ日本語はサラリーマンのエクリチュールのみだったということを信じて、なんとか幻想を延命させようと思っています。