「安部公房が嫌い」

安部公房が苦手」「安部公房がキライ」「安部公房イラネ」いくつかのパターンを試しましたが、安部公房が嫌いだという人の話は一つも見つかりませんでした。安部公房ってそんなにネガティブなイメージを持たれない作家なのだろうか?
安部公房に関して私は「箱男」と「砂の女」とタイトルさえ忘れた二冊を義務的に読んだばかりだけれど、この人の普通すぎる女性観やセクシャリティが非常に気持ち悪くて、読後は本当に吐きそうになってしまいます。どうして私はそれが受け入れられないのかを考えたいのですが、その隙すら与えられないほどです。その手のヒステリーはなるべく直したいとは思っているのですが・・・そのヒントはネットからは得られませんでした。
他の作家ならどうだろうと、今度は好きな作家で試してみたところ、「芥川龍之介嫌い」は2件ヒット。「夏目漱石嫌い」は5件ヒット。そしてまさかの「中上健次が嫌い」が0件ヒット!純文作家への信仰がこれほど厚いものだとは!怖くなってきました。いや、これなら大丈夫だろう、ヒットするだろうと「太宰治嫌い」と入れたらかろうじて220件。安心したような、しないような。女と一緒に二度も三度も入水しては一人だけ戻ってくるような男は普通非難轟々でしょ。
ちなみに2ちゃんねる文学板を覗いてみても、古典作家に否定意見をするスレッドは一つもありませんでした。みんなアホみたいに大人しいのね。ビビっちゃだめよ。そんなんだから我々は今団塊の世代に苦しめられてるんだから。本気で言ってます。

「コルデベー」

見事に0件ヒット。何のことかと言うと、島の名前です。「ウムラスカ」も0件ヒット。
私の家のトイレには必ず世界地図が貼ってあるのですが、アリューシャン列島の北とかアイスランドの東とか、もうそれは世界の最果てとしか思えないような島にも所有権を主張する人がいて、名前があることに驚いたりします。そうして見ていて気になった町名や島名があるとググらずにはいれなくなるのです。人を拒むような厳しい自然、そんな島の風景はどんなふうなのか、住んでいる人がいたとすれば、その人々は何を考えているのか、そこでは何が信じられていて、何が美で、どんな神がおはすのか。もう頭の中は妄想でいっぱいです。
それにしても、ネットで情報が得られないということは、おそらく日本のどこにいても「コルデベー」についての情報は得ることができないでしょう。「コルデベー」に行った日本人は一人もいないと思われます。もしかしたら専門書などには一行か二行の言及があるかもしれませんが、見つけだすのは困難だろうし、なにより事実として私は「コルデベー」に関して、何一つ知ることができないのです。それってすごくステキなことだと思います。ネットで何でも調べられると思うと万能間を通り越して無気力になってくることがあります。万能感や無気力の特攻薬はフロンティアです。日本においては目に見えるようなフロンティアは貪り尽くされてしまっていますね。

ooka氏へのレス

書き込みありがとうございます。
ブレヒトにお詳しい大岡さんなら、安部公房には少なからず思うところがあるだろうと思っていました。もしできましたら、安部公房ブレヒトについてどこかで何か書いて頂けませんでしょうか?今すごく興味のあるところなんです。

>あの世代の書くものは、概してそういう嫌いがありますな。
これはいったい何故なんでしょうか?偏見として、青春期を敗戦後の日本で過ごすと変態的なセックスなんて思いつくヒマは無さそうではあるけれど。それにしてもあまりにあっさりし過ぎていて、気持ちが悪いです。まるで異常性欲の完璧なカモフラージュみたい、なんて思ったりします。

中上健次とつるんでいた正津勉という詩人の門下にいました。そこで聞いた話しでは、中上健次は原稿に句読点を全く打たずまた改行すらしなかったと。編集の方の校正でやっと読める本の形にしたそうです。そのような書き方をしたのは中上健次が学校に行かずにおばあちゃんに読み書きを教わったからだと聞きました。
中上健次が過大評価される要因は少なくとも二つあると思うのですが、一つにそのような書き方による日本語古来の言葉のリズムがあると思います。私は中上健次の小説の内容ではなく言葉のリズムに病み付きになっていました。本当に麻薬性のあるリズムだと思います、ジャズやヒップホップ並に。
もう一つの要因は、作品の世界観です。言葉は悪いですが、ああいう現代的な低所得の世界に所属する人達の中にも活字好きの潜在人口はかなりの数がいるのですが、そういった人が好きになれる文学作品の数は本当に限られています。中上健次の他に誰がいるかと言えば、ほとんど誰もいない。だからその人口が中上健次ヘミングウェイブコウスキーに集中して熱狂するのだと思います。
あと、中上健次に文句を言う人がいないのかは、単純に怖いからだと思います。あの世界と登場人物達が。インテリ層のトラックドライバーコンプレックス(笑)って、相当強いものですから。
いわゆる正統のアカデミズムの場所に出入りしたことの無い私ですが、そこには中上健次を否定する勇気があるのでしょうか?だとしたらすごく見てみたいです。