たまには芸者の話を。

向島芸者という、一般の人から見れば特殊な仕事をしている私ですが、よく聞かれるのは、料亭で何をするのかということです。
まずお客さんが料亭に何をしにきたのかを察知してあげることから始まります。やっかいでしょ。
一人で来るお客さんは、おしゃべりしに来たり、喫茶店がわりに息抜きに来る人もいるし、特定の女の子の顔を見にくる人や、いざという時料亭を最大限に使うために根回し的に料亭にお金を落として行く人もいます。
「何をしにきた」は、最後のお会計の時になってやっとチラリと表現するお客さんもよくいるくらいで、一朝一夕でわかるものではないので難しいです。
複数のお客さんの場合、ほとんどが何かの集まりの二次会です。
その場合、芸者の役割はお客さんたちの人間関係に円滑油を入れてあげることになると思います。
お客さんの中の年長者は、若い部下に楽しい思いをさせてやる、と同時に部下に対して料亭で遊ぶというステータスを示す機会だというのが基本的なスタンスなので、そこはとにかく尊重します。
なので芸者には向島の敷居の高さを臭わせつつ、打ち解けた雰囲気を醸すことが求められるのです。
ええ、曲芸ですよ。

誰と誰の間に油を入れてあげればよいのか、芸者衆は敏感に察知しますので、殆どの場合説明は要りません。
よほど特殊でない限り、お客さんの仕事が何かあたりをつけることができますので、暗黙のうちに業界の禁忌に触れないように配慮できます。

ね、ちょっとかっこいいでしょ。
でもね、このスキル、他では使えないし、非常に疲れるから使いたくないんだわ。
たまに、仕事ではない場面で、職業を聞かれて「芸者をやっています」と言うと、とたんに「仕事」をさせようとする人がいるけれど、それは本当に、絶対やっちゃいけないことです。たとえ食事をおごるとしてもね。