秩序と混沌

ユダヤの聖書がもたらすのは整然とした秩序の世界です。代々受け継がれることに大きな意味があり、永遠を思わせることでしょう。ある規則に従って動き、そのまま永遠に変わらない社会・世界に生きることを想像してみてください。人間が今後もずっと今と変わらぬ営みを続けるのです。私はきっと宇宙との一体感を感じて、幸福な恍惚感のうちに生きるとも死ぬともつかずに存在しているという感覚になるだろうと想像します。
では、マハーバーラタの世界観はどうなのかというと、まだ60ページしか読んでないのにものを言っていいのかどうかわかりませんが、60ページの時点で、これはもう混沌としか言い様がありません。ただただエピソードだけがこんこんと続き、しかもそれぞれのエピソードはどこか一点に向かって最終的に集中していくのではなく、むしろ各エピソードの関連のなさによって物語の存在や目的は拡散していきます。時にはある女性の尻がいかに魅力的か長々しく記述され、またある時は蛇の種類が数頁にわたり列挙される。かたや3行で一人の人間が生まれて死に、一行で愛して呪って戦います。その混沌が延々と続くことによって、物語の主題は疎となり、世界は無意味に無限に無規則に広がっていき、はてや世界そのものがこの本と同じ膨張と拡散を続ける不条理の混沌なのだといった感覚になり、これもまた非常に宇宙的なのです。