翻訳業界

ある大手レコード会社のプロデューサーから、素人なのでタダでやってもらえると思われたのか、CDの対訳を頼まれたことがあります。私のような素人がそんなことをしていいのかどうか甚だ疑問でしたが、できなかったらやめてもいいとのことで引き受けました。
日本人のアーティストが英語の歌をカバーするといったもので、とりあえず元の歌詞の資料を受け取ったのですが、それからしてとんでもない代物でした。きっと日本人アルバイトが聞き取ったのでしょう。
のっけから「combat steady flow」との一行。コンバット?格闘ですか?
yahoo.comで「曲名 lyrics」と検索するとすぐ正しい歌詞が出てきます。
calm but steady flow」。
その他にも中学生でもおかしいと判るようなひどい間違いがいっぱいで、しかも仮録のCDを聞いてみたら、バンドのメンバーはその間違った歌詞のまま歌っているのです。これに気付かないメンバーもプロデューサーも、義務教育が済んでいないレベルです。これはヤバいと思い、すぐプロデューサーに連絡し、後日正しい歌詞と訳したものをメールで送ったのですが、「雰囲気でやってくれればいいんだから。録音も済んでるし」とだけ、返事が返って来ました。
私は呆れて、その後私から連絡を取らないでいると、向こうも連絡して来ませんでした。
結局私の書いた訳が使われたのかどうかはわかりません。yahooで検索することもしないで歌を冒涜している連中のCDを買って確かめる気になどなれません。

また、私の幼なじみの母君はハワイ人でべらんめえを喋るコンピューターおたくという素敵な方なのですが、長年翻訳の仕事をやっていて、話をよく聞きます。
彼女はビートルズのベスト盤を訳したそうですが、ピンハネゴーストライターが十重二十重に折り重なって、彼女の名前はCDに載らないうえ、ビートルズが一曲千円という報酬だったそうです。報酬の低さよりも自分の仕事の責任が持てないことがイヤで、それ以来歌詞からは手を引いたそうです。

こんなふうに、詩の翻訳というのはものすごくいい加減になされています。