異物感

―Aが退屈して寝転ぶ私の枕元に本を運んできてくれる。私はその本を一冊取って開いてから、Aを見る。Aもこちらを見ている。互いに無言のままだった。私が本に目を戻すとAは私の足許にすわり、本を読みはじめた。―

幾重にも塗り込められて埋もれたはずの記憶が、前触れもなく突然浮かび上がり姿を現す。それは何度押し込めても水死体のように浮かんできては消えて行く。そしてそのたび鮮明になっていく映像と、音と、温度。この光景に意味などなにも無いはずなのに、つい求めてしまうようになる。
「忘れられない過去というのは、その時の自分にとって重要だったのではなく、今の自分にとって重要な出来事だ」
久しぶりにAに会いたくなる。でも何と言って?そもそも今どこにいるのかもわからない彼が、私の記憶の中で凍結したAとは別人であることは判っている。
Aは私の中に居るものの、私の一部ではない。真珠を抱えて育てている、コケだらけのアコヤ貝はこんな気持ちだろうか。